診療マル秘裏話  号外Vol.2080 令和3年4月4日作成

作者 医療法人社団 永徳会 藤田 亨




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目次
 
1)卵巣ガン組織のPSが高い症例では白金製剤無効
2)肉類の摂取とガン以外の疾患リスクとの関係を調査












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 医療界のトピックスを紹介するこのメールマガジンは
1週間に1回の割合で発行しています。もっと回数を増や
して欲しいという要望もあるのですが、私の能力のなさ
から1週間に1回が限度となっています。これからも当た
り前の医療をしながら、なおかつ貪欲に、新しい知識を
吸収し読者の皆様に提供してゆきたいと思っております。
不撓不屈の精神で取り組む所存ですのでどうかお許し下
さい。

 








 
1】 卵巣ガン組織のPSが高い症例では白金製剤無効










 慶應義塾大学は3月9日、手術
により摘出した卵巣ガン組織に
おける活性硫黄種の1つである
ポリスルフィド(PS)を表面増
強ラマン散乱イメージングによ
って世界で初めて検出すること
に成功し、これにより、ポリス
ルフィドが高い値の症例では、
手術後に行われる白金製剤など
の化学療法の効果が低下し、長
期予後が悪化することを明らか
にしたと発表しました。この研
究は、同大学病院臨床研究推進
センターの菱木貴子専任講師、
同大医学部医化学教室の山本雄
広専任講師、加部泰明准教授、
末松誠教授、および、日本医科
大学大学院医学研究科生体機能
制御学分野の本田一文大学院教
授(国立ガン研究センター研究
所部門長兼任)、国立ガン研究
センター研究所の平岡伸介部門
長、防衛医科大学校病態病理学
(津田均教授)、産婦人科学(
高野政志教授)の共同研究グル
ープによるものです。研究成果
は,「Redox Biology」のオンラ
イン速報版に掲載されています。

 卵巣ガン症例では、診断後に
腫瘍減量手術を行ったのち、シ
スプラチンなどの白金製剤が術
後化学療法として施行されてい
ます。しかし、術後化学療法の
効果には大きな個人差がありま
す。このため、化学療法に対す
る抵抗性の指標となるバイオマ
ーカーを探索するとともに、薬
剤抵抗性のメカニズムを解明し、
かつ抵抗性を解除する新たな治
療法を見出すことが求められて
いました。
 
 本田教授らの研究チームは、
防衛医科大学校病態病理学、産
婦人科学と共同で、2病院にお
ける卵巣ガン症例182 例から得
た摘出組織を、免疫組織マイク
ロアレイ法により1,012 種類の
単クローン抗体を用いて解析し
ました。その結果、システイン
やグルタチオン、硫化水素(H2
S) などの生成酵素の一つであ
るシスタチオニンγ-リアーゼ
(CSE) が高く発現している症
例では、白金製剤を主体とした
術後化学療法の成績が悪く、生
命予後が短くなることが分かり
ました。白金製剤に対する薬剤
抵抗性は、病理診断で明細胞ガ
ンと診断された症例が大多数で
したが、それらの症例の中でも
CSE の発現量が高い症例と低い
症例とのばらつきが大きいため、
個々の症例における生命予後の
正確な予測は困難でした。

 末松教授らの研究チームは、
2018年に報告した非標識・無染
色の組織凍結切片を用いて多数
の代謝物を画像化できる表面増
強ラマンイメージング技術を利
用し、国立ガン研究センター・
バイオバンクに蓄積されている
卵巣ガンの組織検体を用いてIm
aging metabolomics解析を実施
しました。その結果、明細胞ガ
ン(Clear Cell Carcinoma:CC
C)では漿液性腺ガン(Serous
Adenocarcinoma:SAC) と比べ
て、ガン細胞集塊部(Cancer c
ell nest)や周囲のガン間質部
(Cancer stroma)で、480 cm-
1に検出されるポリスルフィド
(PS)が高いことが明らかにな
りました。PS は酵素CSEが生成
する主要な代謝物質の1つであ
り、ヒトの固形腫瘍で高値を示
す症例は化学療法抵抗性を示す
ことが初めて明らかになりまし
た。CCCのPS 値は症例間のばら
つきが大きく、特にPS値の中央
値で2群に分けると、低値群で
は全例が化学療法に反応するの
に対して、高値群では術後2,50
0日で亡くなっていました。

 さらに末松教授のチームは、
既存薬の中で去痰薬として汎用
されているAmbroxol(商品名ム
コソルバン)にポリスルフィド
の分解作用があることをSERSの
解析で明らかにしました。ヒト
由来の卵巣ガン細胞株のうち、
PSが高い株であるOVISE 細胞と、
PSが低い株であるOVCAR 細胞を
比較し、Ambroxolを添加すると
OVISE 細胞の生存が低下するこ
とも分かりました。そこで、こ
れらの細胞株の白金製剤(シス
プラチン)に対する感受性を比
較した所、OVISE 細胞ではシス
プラチン単独では細胞死が起こ
りにくいのに対し、Ambroxol共
存下で培養すると細胞死が誘導
されることが明らかになりまし
た。興味深いことに、OVISE 細
胞内の複数の蛋白質では、通常
はシステイン側鎖のチオール基
(-SH) がポリスルフィド化さ
れていることも生化学的に証明
されました。そしてAmbroxolは
これらの蛋白質のポリスルフィ
ド化を顕著に抑制することが示
されました。さらに、ヌードマ
ウスの皮下にOVISE 細胞を移植
して腫瘍形成を起こすモデルで
もAmbroxolはシスプラチンによ
る腫瘍退縮効果を増強すること
が明らかになりました。

 今回の研究により、腫瘍減量
手術を受けた際に採取できる凍
結卵巣組織ブロックを薄切して
できる試料を表面増強ラマン分
光顕微鏡(SERS)で分析するこ
とによって、サンプルを標識、
染色などの人為的操作を加えず
にポリスルフィドが高値の患者
さんを簡便に選別できるように
なりました。また、ポリスルフ
ィド高値の症例では白金製剤と
Ambroxolを併用することによっ
て腫瘍の退縮効果が増強します。
すなわち、治療薬耐性の解除が
可能であることが示唆されまし
た。「このような薬剤併用によ
る抗ガン剤の主作用の増強は、
将来進行性の卵巣ガンの術後化
学療法の予後を改善する可能性
が示唆され、今後の展開が期待
される」と、研究グループは述
べています。

卵巣ガンの治療について解説し

ている動画です。

 

 

 

 



 簡便に選別するのは、勘弁し
て欲しい。        笑














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2】 肉類の摂取とガン以外の疾患リスクとの関係を調査 













 肉類の摂取とガンとの関連に
ついては知られていますが、ガ
ン以外の疾患リスクとの関係に
ついては限定的です。そこで英・
University of OxfordのKaren
Papier氏らは、同国のUK Bioba
nk研究の登録データを用いて肉
の摂取と生活習慣病などの一般
的な疾患リスクとの関連を検討
しました。結果をBMC Med(202
1; 19: 53)に報告しました。

 赤身肉や加工肉の摂取量が多
いほど大腸ガンリスクが高まる
ことなどから、世界保健機関を
はじめ多くの国はそれらの摂取
量を抑えることを推奨している
とPapier氏らは、述べています。
しかし、ガン以外の疾患リスク
についての報告は限定的である
として、Papier氏らは肉類の摂
取と一般的な25の疾患との関連
について検討を行いました。

 対象は、UK Biobank研究に20
06〜10年に登録された中年男女
のうち、ベースライン時の肉の
摂取量、入院および死亡に関す
る情報が得られた47万4,985 人
です。肉の摂取については、食
生活に関する29項目の質問に含
まれる5項目から情報を抽出し
ました。

 具体的には加工牛肉、未加工
ラム・マトン肉、未加工豚肉、
未加工鶏肉、加工肉について摂
取頻度 (0=0回/週、0.5=1回
未満/週,1=1回/週、3=2〜4回
/週,5.5=5〜6回/週、7=1回以
上/日)を評価しました。1週間
当たりの摂取量別に0〜1回群、
2回群、3〜4回群、5回以上群―
の4群に分けました。いずれの
群も平均年齢は55〜57歳でした。

 疾患リスクに関しては、次の
通りです。循環器系〔虚血性心
疾患、心房細動・粗動、脳血管
疾患(虚血性または出血性脳卒
中)、静脈血栓症、静脈瘤、痔
核〕、呼吸器系(肺炎)、消化
器系(胃食道逆流症、胃炎・十
二指腸炎、鼠径ヘルニア、非感
染性腸炎・大腸炎、憩室疾患、
結腸ポリープ、胆のう疾患)、
関節系(変形性関節症)、泌尿
器系(腎結石、尿路感染症、前
立腺肥大症、女性の性器脱)、
その他(子宮筋腫、鉄欠乏性貧
血症、糖尿病、手根管症候群、
白内障、蜂巣炎)。

 47万4,985 人のうち、3分の1
近くが未加工肉や加工肉を1日1
回以上摂取していました。それ
らの日常的(3〜4回/週) な摂
取者の特徴として男性、比較的
高齢、欧州系白人、退職者、BM
I 髙値、喫煙および飲酒の習慣
あり、果物や野菜の摂取が少な
いなどが挙げられました。

 Cox 比例ハザード回帰モデル
を用いて、肉の摂取量と25疾患
の発症リスクを検討しました。
その結果、未加工肉および加工
肉の多量摂取では、摂取量が1
日当たり70g 増えるごとに虚血
性心疾患〔ハザード比(HR)1.
15、95%CI 1.07〜1.23〕、肺炎
(同1.31、1.18〜1.44)、憩室
疾患(同1.19、1.11〜1.28)、
結腸ポリープ(同1.10、1.06〜
1.15)、糖尿病(同1.30、1.20
〜1.42)の発症リスクが有意に
上昇することが示されました(
いずれも傾向性のP<0.001)。
未加工肉と加工肉を個別に検討
しても同様の結果でした。

 一方、未加工肉の多量摂取で
は、摂取量が1日当たり50g増え
るごとに鉄欠乏性貧血症(HR 0
.80、0.72〜0.90、傾向性のP<
0.001) 発症リスクが有意に低
下しました。鶏肉の多量摂取で
も、摂取量が1日当たり50g増え
るごとに鉄欠乏性貧血症の発症
リスク(同0.83、0.76〜0.90)
は有意な低下が確認されました
が、摂取量が1日当たり30g増え
るごとに胃食道逆流症(同1.17、
1.09〜1.26)や糖尿病(1.14、
1.07〜1.21)などの発症リスク
は有意な上昇が認められました
(いずれも傾向性のP<0.001)。

 以上の結果を受けて、Papier
氏らは「大規模前向きコホート
研究のデータから未加工肉、加
工肉、鶏肉の多量摂取により幾
つかの疾患の発症リスクが高ま
ることが明らかになった。一方、
未加工肉および鶏肉の摂取量が
多い者では鉄欠乏性貧血症の発
症リスクが低下していた」と結
論しました。「高リスクの主な
要因としてBMI 高値が考えられ
るが、BMI およびウエスト周囲
長を補正後もリスクの上昇が認
められたため、肥満による別の
側面が影響を及ぼしている可能
性がある」と付言し、さらなる
研究の必要性を訴えています。

アメリカ産牛肉のリスクについ

て解説している動画です。

 

 

 

 



 不言実行を付言した。  笑













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編集後記



 慶應義塾大学が3月9日、手術
により摘出した卵巣ガン組織に
おける活性硫黄種の1つである
ポリスルフィド(PS)を表面増
強ラマン散乱イメージングによ
って世界で初めて検出すること
に成功し、これにより、ポリス
ルフィドが高い値の症例では、
手術後に行われる白金製剤など
の化学療法の効果が低下し、長
期予後が悪化することを明らか
にしたと発表したのは、素晴ら
しい業績です。手術後に行われ
る白金製剤の化学療法が問題で
す。いつも申し上げている通り
クロノテラピーでなければ、そ
の本当の効果を測ることは、で
きません。いかに化学療法が、
功を奏して、病気が快方に向か
ったとしても、副作用で、ボロ
ボロに生活の質がなるようなら、
意味がないと言えるでしょう。
 英国のUK Biobank研究の登録
データを用いて肉の摂取と生活
習慣病などの一般的な疾患リス
クとの関連を検討したのは、素
晴らしい業績です。誰もが知っ
ている、あるいは研究されつく
されている事柄についてではな
く、余り知られていないガン以
外の生活習慣病との関連を検討
したのは、慧眼だと思いました。
大規模前向きコホート研究のデ
ータから未加工肉、加工肉、鶏
肉の多量摂取により幾つかの疾
患の発症リスクが高まることが
明らかになり、その一方、未加
工肉および鶏肉の摂取量が多い
者では鉄欠乏性貧血症の発症リ
スクが低下していた、と結論し
たことを受けて、肉の摂取をす
る人は、これらのリスクを承知
の上、摂取頻度を考えることが、
必要かと思われます。

 鶏眼の原因から、治療法を思
いつくのは、慧眼でした。 笑















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