診療マル秘裏話  Vol.914 令和3年6月16日作成

作者 医療法人社団 永徳会 藤田 亨




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目次
 
1)TNBCに、EGFR-TKIと抗IL-26 抗体の併用が有用
2)新規脳梗塞治療候補薬第2相試験で有効性証明














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 医療界のトピックスを紹介するこのメールマガジンは
1週間に1回の割合で発行しています。もっと回数を増や
して欲しいという要望もあるのですが、私の能力のなさ
から1週間に1回が限度となっています。これからも当た
り前の医療をしながら、なおかつ貪欲に、新しい知識を
吸収し読者の皆様に提供してゆきたいと思っております。
不撓不屈の精神で取り組む所存ですのでどうかお許し下
さい。

 





 
1】 TNBCに、EGFR-TKIと抗IL-26 抗体の併用が有用














 トリプルネガティブ乳ガン(
TNBC)は治療標的が存在しない
難治ガンであり、予後不良です。
順天堂大学大学院免疫病・ガン
先端治療学の伊藤匠氏らは、マ
ウスモデルにより上皮成長因子
受容体チロシンキナーゼ阻害薬
(EGFR-TKI)ゲフィチニブとイ
ンターロイキン(IL)-26 標的
治療の併用が有用である可能性
を明らかにし、Cell Death Dis
(2021; 12: 520) で報告しま
した。

 TNBCはEGFRの発現が認められ
るため、EGFRが治療標的となる
可能性が示唆されてきましたが、
EGFRを標的とした治療の効果は
乏しいとされていました。一方、
IL-26 はさまざまな炎症性疾患
やガンで過剰発現するとされて
います。同氏らはヒトのIL-26
を産生する遺伝子改変マウスを
用いてTNBCモデルを作製しまし
た。ゲフィチニブ投与による腫
瘍細胞の小胞体ストレスがIL-2
6 産生を導きゲフィチニブ耐性
を獲得すること、抗IL-26 抗体
の併用により治療抵抗性は減弱
することを明らかにしました。

 トリプルネガティブ乳ガンは、
乳ガン細胞の表面に、ホルモン
受容体であるエストロゲン受容
体とプロゲステロン受容体、そ
してHER2(ハーツー)蛋白質の3
つがいずれも存在しないタイプ
の乳ガンです。難治性とされて
います。

 上皮成長因子受容体チロシン
キナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)に
ついての説明:細胞増殖のシグ
ナル(信号)を伝達する上で重
要となるチロシンキナーゼとい
う酵素があります。皮膚の表面
の細胞では上皮成長因子受容体
(EGFR)というチロシンキナー
ゼ活性をもつ受容体に上皮成長
因子が結合し、酵素活性がおこ
り伝達により細胞増殖がおこり
ます。非小細胞肺ガンなどのガ
ンではこの受容体に変異がおこ
り常に活性化した状態になるこ
とで無秩序な細胞の増殖が行わ
れます。本剤はEGFRチロシンキ
ナーゼを選択的に阻害し、ガン
細胞の増殖能を低下されること
などにより抗腫瘍効果をあらわ
します。また本剤の中にはガン
細胞の自滅を誘導させる作用な
どをあらわす薬剤もあります。
本剤はガン細胞の増殖などに関
わる特定の分子の情報伝達を阻
害することで抗腫瘍効果をあら
わす分子標的薬です。

 CD26分子によって活性化され
た免疫細胞から、炎症関連因子
のひとつ、IL-26 が産生される
ことが明らかになっています。
IL-26 は炎症関連因子の中でも
発見が新しく、その働きの多く
がまだ解明されていません。乾
癬などの病気では、血管新生を
起こすことが明らかになってお
り、抗IL-26 抗体により、これ
らの病気が動物実験で治療効果
が証明されています。

トリプルネガティブ乳ガンの

再発治療について解説している

講演動画です。

 

 

 

 



 新生血管は、欠陥のある血管
ができる。        笑














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2】 新規脳梗塞治療候補薬第2相試験で有効性証明














 昭和大学薬学部准教授の柴田
佳太氏らの研究グループは、東
京農工大学、バイオベンチャー
のティムスと共同開発している
新規の脳梗塞治療候補薬TMS-00
7 の第2相試験を終了し、有効
性が得られたと発表しました。
それによると、主要評価項目で
ある症候性頭蓋内出血の発生は
見られず、血管の再開通と患者
さんの機能回復において効果を
示したということです。出血な
どの副作用が少ない治療薬とし
て期待されています。

 TMS-007 は東京農工大学の蓮
見惠司教授らがクロカビから発
見した新規化合物です。低分子
のプラスミノーゲン活性化因子
で、血栓を破壊する作用ととも
に血栓部位の局所的炎症を阻害
する可能性を有しています。

 柴田氏らは脳梗塞病態モデル
マウスにTMS-007 を投与した実
験で、脳内出血を引き起こさず
に顕著な効果を示すことを発見
しました。2015年8月に開始さ
れた第1相試験で安全性が確認
されたことから、第2相試験に
着手しました。

 第2相試験は、発症後12時間
以内の急性虚血性脳卒中(脳梗
塞)患者さんのうち血栓溶解薬
の組織プラスミーノゲンアクチ
ベータ(t-PA)や血栓回収療法
が適用にならない患者さんを対
象とした多施設単回投与二重盲
検ランダム化プラセボ対照漸増
用量試験です。日本国内の90例
の患者さんを登録し、TMS-007
投与群(52例)とプラセボ投与
群(38例)で有効性および安全
性を比較しました。TMS-007 の
投与を受けた被験者が治療を受
けるまでの平均時間は9.5 時間、
プラセボ群では9.3 時間でした。

 主要評価項目は安全性で、米
国立衛生研究所脳卒中スケール
(NIHSS)スコアで4ポイント以
上の悪化を示した症候性頭蓋内
出血(sICH)の発生率です。TM
S-007 投与群で発生は認められ
なかったのですが、プラセボ群
は3%でした。この結果から、TM
S-007 は従来の血栓溶解薬で指
摘されていたような重篤な合併
症である頭蓋内出血の懸念がな
いことが示されました。

 副次評価項目は90日後の機能
的自立度の改善効果で、TMS-00
7群では40%が日常生活における
機能自立度の指標であるmodifi
ed Rankin Scale(mRS)で0~1
点のスコアを達成し、後遺症や
重篤な障害も発症しなかったの
に対して、プラセボ群では18%
でした(P≦0.05)。

 磁気共鳴血管撮影で評価した
血管の再開通率は、プラセボ群
の26.7%(15例中4例)に対し、
TMS-007群では58.3%(24例中14
例)でした(オッズ比4.23、95
%CI 0.99~18.07)。

 脳梗塞の治療では、発症から
3~4.5時間を過ぎると血栓を溶
かす血栓溶解剤t-PAは使用でき
ません。また、発症から8時間
までであれば、血栓を取り除く
血栓回収療法も行われますが、
対象となる患者さんは一部にと
どまります。治療薬の開発をめ
ぐっても、これまで多くの脳梗
塞治療薬候補物質の開発が進め
られましたが、そのほとんど承
認に至っておらず、脳梗塞に対
する直近の血栓溶解薬が承認さ
れてから約25年が経過していま
す。TMS-007 は、血栓溶解療法
を受けられる可能性のある患者
さんを増やし、脳卒中後の機能
的自立の可能性を高めることが
できると期待されています。

プラスミノーゲンアクチベータ

ーについて解説している動画で

す。抗凝固薬についても解説し

ている動画です。

 

 

 

 



 自立生活を送るには、自律神
経の調整が必要。     笑














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編集後記



 順天堂大学大学院免疫病・ガ
ン先端治療学の伊藤匠氏らが、
マウスモデルにより上皮成長因
子受容体チロシンキナーゼ阻害
薬(EGFR-TKI)ゲフィチニブと
インターロイキン(IL)-26 標
的治療の併用が有用である可能
性を明らかにし、Cell Death D
is(2021; 12: 520) で報告し
たのは、素晴らしい業績です。
分子標的薬は、耐性と言って効
かなくなることが多いため、耐
性を生じにくくする工夫として、
今回は、抗IL-26 抗体が使われ
たということだと思います。
 昭和大学薬学部准教授の柴田
佳太氏らの研究グループが、東
京農工大学、バイオベンチャー
のティムスと共同開発している
新規の脳梗塞治療候補薬TMS-00
7 の第2相試験を終了し、有効
性が得られたと発表したのは、
素晴らしい業績です。特に、ウ
ロキナーゼやt-PAで認められる
ような脳内出血を引き起こさず
に顕著な効果を示すと言う点が
素晴らしいと思います。TMS-00
7 が、血栓溶解療法を受けられ
る可能性のある患者さんを増や
し、脳卒中後の機能的自立の可
能性を高めることができること
を期待したいと思います。

 漢方薬の駆風効果を工夫する。  
















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